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第 八 話 おにぎりをめぐる冒険
キンヤとカイキは、残業の合間を縫い、小腹を満たしにコンビニへ行くことにしました。二人ともおにぎりにしようと考えましたが、残っているのはあいにく二つだけ。キンヤは不満そうに「焼きおにぎりと赤飯だけかあ。ちょっとしょぼいなあ」とぶつぶつ、カイキは「まあまあ。残っているだけでもよしとせにゃ」とあきらめ顔。「さて、どっちにする?」「じゃあ、赤飯で」。会計を済ませ、二人は職場に戻りました。
そこに帰り支度のアイダ課長が通りかかり「おっ、精が出るねえ。・・・夕飯か?」と声をかけました。キンヤは「まあ、ちょっと」と答え、バリバリと包装フィルムを剥がし始めました。すると課長は妙なことを言いだしたのです。「焼きおにぎりと赤飯・・・まるで耐熱合金、かな」。キンヤとカイキは怪訝な顔を見合わせました。
「耐熱合金に2種類あるのは知っているかな?」「固溶強化型と析出強化型、ですか?」。金属系出身のキンヤがこう答えると「正解。では、私のいってる意味がわかるかな」。キンヤは手にした焼きおにぎりをじっと見つめるとやがてにやりとし「なるほど」と呟きました。「あ、なんだよそれ」とカイキが突っ込むとキンヤは説明を始めました。
「焼きおにぎりは、おにぎりを火で炙っておこげで覆う。だから、成形後に時効処理で表層面を硬くする析出強化型のようなプロセスであると言える。もちろん、強くなるメカニズムは違うけど」。課長は頷き「じゃあ、赤飯は」「強度向上成分である小豆を相内に侵入・拡散させた固溶強化型、ということですかね」。
キンヤの説明が終わると課長は拍手をしながらこう言いました。「金属を強化するという目的に対して複数のプロセスがある、というのが面白いよね」。するとカイキは「僕は表面が硬いと歯が立たないので苦手です。なので固溶強化型の赤飯の方が好きです。」
課長は笑いながら最後にこう言いました。「それはともかく、食べたらさっさと仕上げて帰りなさい。君たちの疲労強度の方が心配だ」。二人は大きく頷きました。
2023年1月31日