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第 十 話 さまよえる錬金術師
さて、非鉄合金を検索した際、こんなことに出くわしたことはないでしょうか。
*図面などで指定された名称で検索しても出てこない
*作っていたメーカーの製造品目を眺めても見当たらない
*以前購入した形状・寸法のものが製造範囲外になっている
WEBを巡ってみると確かに、以前あったメーカーのページがない、社名や合金の名称が見慣れぬものに変わった、いつのまにか製品のラインナップが入れ替わった、などといったことがあるようです。しかも、ここ20年くらいはその機会が多くなっているような・・・。
(ニッケル合金メーカーの変遷についてはこちら)
では、いったいなぜこんなことが起きるのでしょうか?
近代の非鉄合金の開発は軍需に始まり、製鉄業や化学産業の隆盛、自動車産業や半導体産業の勃興など、時代時代のニーズに合わせたユニークな超合金(super alloyもしくはspecial alloy)が米国やドイツを中心に生み出され、やがて日本もその流れに乗りました。各国ともその原料や製造技術に造詣の深い製鋼メーカーや鉱山メーカーなどが開発や製造の責を担いました。
非鉄合金の開発は、膨大な経営資源を費やしての試行錯誤の連続です。これは鋼や銅やアルミでも同じことですが、用途が限定され圧倒的に需要の少ない非鉄合金の場合、こうした開発を手掛けられるメーカーは限られます。増産効果を見込みづらい以上、設備は製鋼設備の転用や保全による延命に頼りがちとなります。
やがて、合金製造に関わる特許が失効すると同等材の製造が始まって競合し、シビアな価格競争となります。採算が悪化し、設備保全も行き届かなくなってくると、いよいよメーカーは事業の行く末を考えざるを得なくなります。
一方、合金名称の中には強い「魔力」を持つものがあります。「ハステロイ」や「インコネル」のように広く知られたものは、開発者に高い契約料を払いライセンスを得て製造もしくは販売することになりますが、採算が悪化すると更新を諦め、自社ブランドで流通させざるを得なくなります。
さらに、それでも採算が取れなくなってくると、生産品目を絞るなどしたのち、いよいよ最後の決断を迫られることになります。
こうした事情が重畳し、直近はより短いサイクルで様々な転機が到来していることは想像に難くありません。
昨今は、起業家グループがテコ入れし、社名変更も行なって再出発を図る事例が増えてきました。縁もゆかりもない企業の傘下に入ることとなった開発者たちの心境は複雑でしょう。元関係者としては、後継者がコア技術をきちんとリスペクトし、さらに伸長していくことを願ってやみません。
非鉄合金には必ず「ハマりどころ」があります。レトロフィットを志す威勢の良いスタートアップに、もっともっと着目してもらいたいものです。
漂泊の 人群眺む 道すがら
碧き息吹にこそ 熾の火燃ゆれ
2023年4月24日