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第 十一話 かなとカナ
カイキの所属する技術部では、製造に関わる図面も作成しています。製図は派遣社員の平井さんと片山さんにお願いすることがほとんどです。伯仲する腕前同様、ふたりには相似点があります。平井かなさんと片山カナさん。書き方は違えど偶然にも名前が同じなのです。
昼食時のこと。「おーい、カイキ君。一緒に食べに行こう」。珍しくアイダ課長から声がかかり「あ、チャンスだ。奢ってもらおうよ」といささか遠慮する二人も誘いカイキは後を追いました。
食事が済むと、課長は「平井さんと片山さん・・・あ、ひらがなとカタカナ、か」と呟きました。思わず、しまったとの表情の課長でしたが、『かな』さんは「あはは。ですよね」とすましたもの。これを受け『カナ』さんも「実はあたし達、お互いをひらがなちゃん、カタカナちゃんって呼び合ってるんです」と笑いました。カイキも「ふーん、仲良いんだね。実は僕も気にはなってたんだ」と白状しました。課長はこの空気に安心したのか、こんな話を始めました。
「三人とも図面は書くと思うけど、僕がやっていた頃は全てカタカナ表記だった。今ならどんな文字だってありだろう?でもね、僕らが手書きしてた頃は漢字やひらがなは御法度だったんだ」「ゴハット?」。若い三人は一様に目を丸くしました。
「この理由には諸説あると思うが、昔のお役所の文書がカタカナ表記で統一されていたのが発端ではないかな。ひらがなでは書き間違いや読み間違いが起きやすいとの指摘もあるが、特に機械図面では外来語の記述が多いとの一面もあったろう」「ははあ」「だが、僕はこれが広まったのは、これなんじゃないかと睨んでいる」。課長はおもむろに一枚の写真をスマホをかざして見せました。「なんですか、これは?」「文字テン(プレート)だ」。
カイキはステンシルなら使ったことがあるので、じきに課長の言葉の意味を理解しました。「なるほど、昔の人はこれを使って文字を書いていたんですね。確かにひらがなちゃんでは『切れる(交わる)』部分があって限界がありそうですね」。名指し(?)された『かな』はさっそく「あたし、めったにキレませんけど」と返します。課長は笑いながら「まあ、昔の人はこれを使って丁寧に文字を入れ、現場に間違いなく伝えるよう心を砕いていたんだろうと思う。自己流の筆跡でなく整った文字でね」と解説しました。それを聞き『カナ』が「私たちもきちんと皆さんに伝えたいと思います」と言うと、課長も頷きながら「その意気でよろしく頼むよ。電子の文字になっても慌てず、ミスなく、丁寧に、ね」と話を終えました。
ラブレター 手書きで伝える ホントの愛
デザイナー たくみを伝える フォントの愛
カナり長くはなるけれど
カナらず読んでと 想い伝えて
2024年7月7日
←糸