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第 三 話 愛のために
検査担当のマモルが会社最古参のアカシさんと赤ちょうちんで酒を酌み交わしています。
「アカシさん、ちょっと聞きたいんスけど」「なんだい」「昼間の工程会議の時なんですけどね。現場のコウサクやセイサクが明日から次の部品を取り付けるって言うんです。でも僕は違うと思うんです」。アカシさんはグラスを持つ手を止め「ほほう、どういうことかな?」と訊きました。「僕はその工程を一旦止めて検査するべきと思うんです。今でないと寸法が測れなくなる部分なんです。でも納期がないから仕方ないって」。するとアカシさんはこうつぶやきました。「それは、世に言う『ホールドポイント』と言うものではないのかな?」
製品が完成してからでは品質がわからない部位がある場合、これが隠れる工程の手前で一旦作業を止める時があり、これを「ホールドポイント」とよびます。この確認は製造以外の担当者が行い、合格を確認してから「リリース」するのがルールです。
アカシさんはホールドポイントを簡単に説明し「まあ、急がば回れ、ということだ。明日私が製造課長に直接意見を伝えよう」と言いました。「あ、それは・・・ちょっと」「ははあ、角が立つのがイヤか」。そしてマモルを見つめこういいました。「実は僕は社長にQMR(品質管理責任者)の役目を仰せつかっている。だから製品の品質に関する責任は僕にある。でもだからといって、君たちが割れるのも本意ではない。まあ、なんというか・・・これは『愛のため』ということかな」「愛?」「僕は君たちも製品も等しく愛している。愛のためにどんな時でも駆けつけて力を尽くす、ということだ。ちょっとくさいかな?」。酒場で仕事をそして愛をさりげなく語る。
「いいえ。かっこいいです」「そうかい。まあ、まかせたまえ、悪いようにはしない。例えばこういう時にはだな・・・」。マモルはもう一本お銚子を頼むことにしました。
陸海空いろんなところから どこでも駆け付けましょう
愛のためにあなたのために 生きていきましょう
「愛のために 奥田民生」
2022年5月3日