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第 十三話 不適切にはわけがある
正月休みのことです。キンヤとカイキはアイとマイを誘い国立競技場でラグビーの試合を観る約束をしました。すると、この話を小耳に挟んだカイキの上司アイダ課長が「俺も行く」と合流することに。聞くと、課長は学生時代にラグビーをやっていたそうで、同じくプレイヤーだったキンヤも二つ返事でチケットを買い増すこととしました。
「そこだ、いけいけ!」。いざ試合が始まると一番乗ってきたのは課長。古き良き時代を懐かしむというより、完全に試合に没頭しているようです。初めて観るというアイもマイも課長のノリにすっかりのせられ黄色い声をあげる中、あっという間にハーフタイムとなりました。
「いやー、さすが課長、すっごくお詳しいですねえ」。ラグビーには一家言あったキンヤも、課長の、難解な用語やルールについて的確に解説しながらの応援ぶりには脱帽です。まんざらでもなさそうな課長に、売店で買ってきたコーヒーを渡しつつ「ところで、今年、ちょっとルールが変わるのはご存じですか」「そうなのか」。さすがの課長も最新の話題にはついていけてなかったようでキンヤに耳を傾けました。
「いくつかの変更があるんですが、一番目立つのは『呼び方』ですかねえ。例えば、ボールを前に落とす反則の『ノックオン』は『ノックフォワード』に、相手からボールを奪う『ジャッカル』は『スティール』になるんです」「なるほど。スティールはバスケに合わせたのかな。より多くの人にわかりやすくするのを狙ったんじゃないかな」「さすが元ラガーマン、その通りっす」。すると、課長はこんな話をし始めました。
「僕らの世界でも呼び方が変わったものがある。その多くは差別などの不適切で反社会的な文化を変えていこう、というものだね。もっとも有名なものは『不適合』。これは『不具合』からの言い換えだが、なぜ不適切かは知っているよね?それから『閉止フランジ』。これは・・・ま、調べればわかることだが」。 そしてこう続けました。「往々にして現場でも年配の方はいまだに昔の呼び方にこだわることが多い。なので、彼らが何を伝えようとしてるのかを理解した上でこうした言い換えへの注意を促すのだが、なぜそう言い換えられたかを知っておくことも重要なんだ」。キンヤは深く頷きました。
「あー、なんか二人でめんどくさい話してますぅー?」。割り込んできたマイにキンヤはこう答えました。「大丈夫、不適切な話は何もない」。すると傍にいたアイは「どうせ、言葉を単純に『翻訳』するだけのAIじゃダメってお話でしょ」としたり顔。「お。腕を上げたな」とカイキはまぜっ返しました。
たまにゃノッコンするけれど
ハートジャッカルしたならば
ゴール・ラインへまっしぐら
めざすはあの子のインゴール
(注:執筆時の呼び方を用いています)
2025年1月19日