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金属材料の「強さ」とは
圧力容器の材料を選定する場合、耐食性や耐熱性を考慮する前に押さえておかなければならないのがその材料の「強さ」です。強さをどう定義するかは様々考えられるかも知れませんが、圧力容器の材料に関しては公的規格で決まっています。
材料の強さ=許容引張応力とは?
金属材料の強さを知るためには、通常引張試験を行います。この試験により得られる引張強さ、降伏点(炭素鋼以外の場合は耐力)が強さの指標となるのですが、その値をそのまま用いて肉厚などを決めるとギリギリな構造となってしまい、いざという時の余裕がありません。
このため、一定のルールに則って余裕を持たせた値を設計に用いることとなりますが、これを許容引張応力と呼びます。引張強さは温度が上がるほど低くなりますが、許容引張応力もこれに合わせて低くなるのが一般的です。
JISにおける許容引張応力
JIS B 8265「圧力容器の構造ー一般規格」(設計圧力:30MPa以下)における許容応力の定め方は下記によります。その結果は「許容引張応力表」として、同規格に設計温度ごとに数値が示されています。
a) クリープ領域に達しない場合
・常温以上の各温度における許容引張応力は,次の値のうちの最小のものとする。
① 常温における規定最小引張強さの1/4
② 各温度における引張強さの1/4
③ 常温における規定最小降伏点または0.2%耐力の1/1.5
④ 各温度における降伏点または0.2%耐力の1/1.5または0.9
・常温未満の設計温度における許容引張応力は,上記①または③のうちの小さい方以下とする。
*この規定の中にある1/4や1/1.5などの数値を「安全率」と呼びます。
b) クリープ領域の場合
・次の値のうちの最小のもの以下とする。
① 各温度において1000時間に0.01%のクリープひずみを生じる応力の平均値の100%
② 各温度において1000時間でのクリープ破断応力の平均値の67%
③ 各温度において100000時間でのクリープ破断応力の最小値の80%
なお、クリープ領域とは、主に高温環境下において一定の荷重を受けると連続的に変形を生じる現象が起こる温度領域のことを言い、一般的な材料では600℃程度(材料の融点の1/2程度)以上であるとされています。
一方、設計圧力が100MPa以下の場合は、JIS B 8266「圧力容器の構造―特定規格」で定められています。
ASMEにおける許容引張応力
一方、ニッケル合金など耐食鋼・耐熱鋼の多くが規定されている米国規格のASMEの場合は、Boiler and Pressure Vessel CodeのSec.II Part Dで許容応力表が示されています。しかし、安全率の考え方がJISと異なるため、たとえ同等の材料であっても許容引張応力の数値は異なっており注意が必要です。
この差異による混乱を解消するための新たなJIS規格も制定されてはいますが、あまり一般的ではないため、顧客の要求仕様に合わせて双方の材料規格を使い分ける、というのが現実的なようです。
設計条件、許容引張応力、そして材料選定、材料手配
圧力容器の構成材料(耐圧部材)である限り、耐圧計算は必須です。となると、設計する温度における許容引張応力が規格で示されていなければ、その規格に準拠して設計する限りその材料は「使えない」という判断になります。
また、JISとASMEでは同等の材料でも材料試験項目や判定基準が異なるため、設計で採用した規格に準拠した材料であることをミルシートで証明する必要があり、材料手配の際に注意が必要です。